映画『ブレードランナー』とデザイン

SF映画の金字塔『ブレードランナー』(1982年)。監督は、ロンドン王立美術大学でグラフィックデザインを学んだ後、アップル「1984」など数々のテレビ CM を手掛けたことでも知られるリドリー・スコット (Ridley Scott, 1937 – ) 。そのことも手伝ってか、この映画には建築・プロダクト・ファッションなど、過去と未来のデザイン的な見所がぎっとりと詰まっている。

プロダクトデザイン全般を手掛けたのはシド・ミード (Syd Mead, 1933 – 2019)。視覚効果監修には『2001年宇宙の旅』や『スター・トレック』などを手掛けたダグラス・トランブル (Douglas Trumbull, 1942 – 2022) が参加した。

デッカードのアパートメント
Rick Deckard's Apartment

マヤ文明のモチーフが印象的なハリソン・フォード演じる主人公デッカード (Rick Deckard) のアパートメント。エニス・ブラウン邸 (The Ennis Brown House) という LA に実在する建物で、1924年にフランク・ロイド・ライト (Frank Lloyd Wright, 1867 – 1959) によって設計された。映画では、巨大な複合住宅に見えるよう合成され、シド・ミードのデザインが施された。同じくリドリー・スコット監督『ブラックレイン』の撮影でも使用された。

J・F・セバスチャンのアパートメント
J.F. Sebastian's Apartment

タイレル・コーポレーションで働く技術者のJ・F・セバスチャン(ウィリアム・サンダーソン演)。彼が自作の機械仕掛けたちと住んでいる重圧で敗退的なアパートとして登場するのが、LA に実在するブラッドベリー・ビル。1893年にジョージ・ワイマン (George Wyman, 1860 – 1939)によって設計され、シンプルな外観からは想像し難い、映画どおりの圧巻の内部を包括している。

デッカードのウイスキーグラス
Deckard Whiskey Glass

デッカードが「ジョニーウォーカー・ブラックラベル12年」を注ぐ存在感のあるロックグラスは、アルノルフォ・ディ・カンビオ社の「Cibi」。イタリアの女性プロダクトデザイナー、チニ・ボエリ(Cini Boeri, 1924–2020)による製品で、彼女はすべてガラスでできた椅子「Ghost」をデザインしたことで有名。なお、ジョニーウォーカーの親会社はイギリスにある世界最大級の酒造会社ディアジオである。

衣装デザイン
Costume Design

トム・フォードもフェイバリットに挙げている『ブレードランナー』。チャールズ・ノッド (Charles Knode) とマイケル・カプラン (Michael Kaplan) による1940年代とサイバーパンクなどを取り入れた衣装デザインは、多くのファッションデザイナーに影響を与えた。その影響がもっとも表れていたのは、アレキサンダー・マックィーンによるジヴァンシィ 1997–1998秋冬コレクションであろう。ウイングショルダーのスーツ、ジオメトリックな柄、ヘアスタイルなど、レイチェル(ショーン・ヤング演)そのもの。

Alexander McQueen for Givenchy Autumn-Winter 1998-1999 Blade Runner Runway

Alexander McQueen for Givenchy Autumn-Winter 1998-1999 'Blade Runner' Runway

音 楽
Music

サウンドトラックは、ギリシャの世界的作曲家ヴァンゲリス (Vangelis, 1943 – 2022) によって手掛けられた。SF映画であっても未来的なサウンドに偏らず、全体的にミステリアスな雰囲気を帯びつつも、民族的な響き、人間味を感じさせるノスタルジーなムードなど、それぞれのシーンにふさわしいバラエティに富んだサウンドを堪能することができる。筆者のお気に入りは6曲目「One More Kiss, Dear」(歌詞: Peter Skellern 作曲: Vangelis 歌: Don Percival)。

イラスト
Illustration

ポスターのイラストはアメリカのアーティスト、ドリュー・ストルーザン (Drew Struzan, 1967– ) によって描かれた。ストルーザンは映画『インディ・ジョーンズ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『スター・ウォーズ』シリーズのポスター、ビーチ・ボーイズ、キャロル・キング、ブラック・サバス、アリス・クーパーなどのカバーアートを手掛けたことでも世界的に有名。

ロゴ
Logotype

ポスターおよびパッケージで使用されたロゴ。既存のフォントではなく、タイプデザイナーもしくはレタリング・アーティストによってデザインされたと考えられる。

フォント
Fonts

オープニングのタイトルおよびエンドクレジットは、1919年にハリウッドで設立された Pacific Title & Art Studio によって制作。フォントはオールドローマンの傑作 「Goudy Old Style」が使用された。

The Ladd Company

本編公開前に表示れるラッド・カンパニーのロゴ。同社はアメリカの製作会社で、20世紀フォックスで『スター・ウォーズ』(1973) や『エイリアン』(1979) を製作したアラン・ラッド・ジュニア (1937–2022, 84) らによって1979年に設立された。

アカデミー賞3部門を受賞した『炎のランナー』(1981) をはじめ、『ブレードランナー』(1982)『ポリス・アカデミー』(1984) 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984) 『ブレイブハート』(1995) などを製作。1984年に解散、再び1995年に組織化され2007年に解散した。

なお、アラン・ラッド・ジュニアの父は、西部劇の名作『シェーン』で主役を演じたアラン・ラッド (1913–1964, 50) である。

追 悼
Memorials to Irreplaceable Staff

このページを最初に公開した2007年11月3日から、10人の著名関係者が鬼籍に入られた。彼らの仕事を記録したこの名画は、これからも世界中の人々に感動と影響を与え続けるであろう。

チニ・ボエリ

Cini Boeri
1924年6月19日 2020年9月9日 96歳 プロダクトデザイナー

ジョー・ターケル

Joe Turkel
1927年7月15日 2022年6月27日 94歳 エルドン・タイレル役

ドン・パーシヴァル

Don Percival
1930年10月2日 2013年9月25日 82歳 「One More Kiss, Dear」歌手

シド・ミード

Syd Mead
1933年7月18日 2019年12月30日 86歳 プロダクトデザイナー

M・エメット・ウォルシュ

M. Emmet Walsh
1935年3月22日 2024年3月19日 88歳 ハリー・ブライアント役

アラン・ラッド・ジュニア

Alan Ladd Jr.
1937年10月22日 2022年3月2日 84歳 プロデューサー

ダグラス・トランブル

Douglas Trumbull
1942年4月8日 2022年2月7日 79歳 視覚効果

ヴァンゲリス

Vangelis
1943年3月29日 2022年5月17日 79歳 作曲家

ルトガー・ハウアー

Rutger Hauer
1944年1月23日 2019年7月19日 75歳 ロイ・バティ役

ピーター・スケラーン

Peter Skellern
1947年3月14日 2017年2月17日 69歳 「One More Kiss, Dear」作詞

I've seen things you people wouldn't believe.
Attack ships on fire off the shoulder of Orion.
I watched C-beams glitter in the dark near the Tannhäuser Gate.
All those moments will be lost in time, like tears in rain. Time to die.

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