2005年10月17日、全米雑誌編集者協会(ASME = American Society of Magazine Editors)が発表した「雑誌表紙ベスト40」。過去40年間(1965–2005)に全米で出版された雑誌から、優秀と思える表紙40冊が選出された。有名なものから、「なんでこれが?」と思うようなものまで、ベトナム戦争 (1955–1975) やアメリカ同時多発テロ事件(2001年9月11日)など、社会的・政治的世相を反映したものが多い。アートディレクターでは、ジョージ・ロイス (George Lois, 1931– 2022, 91) が手掛けた『エスクァイア』3冊と『ニューヨーク』(1970年6月8日号)1冊の計4冊で最多。
1. Rolling Stone 1981年1月22日号
女性写真家アニー・リーボビッツが撮影したジョン・レノンとオノ・ヨーコの有名なポートレイト。撮影は1980年12月8日に行われ、その数時間後にジョンは暗殺されてしまった。間違いなく写真史に残る深遠な一枚。
Photographer: Annie Leibovitz (1949– )
Models: John Lennon (1940–1980, 40) and Yoko Ono (1933– )
2. Vanity Fair 1991年8月号
映画『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990) のヒットで有名になったデミ・ムーア。妊娠7か月の彼女をアニー・リーボビッツが撮影した同号は発売禁止になり、大論争を巻き起こした。1991年7月20日、ムーアはスカウト・ラルー・ウィリス (Scout LaRue Willis) を出産。2024年現在、娘はミュージシャンとして活動中。父親は俳優ブルース・ウィリスである。
Photographer: Annie Leibovitz (1949– )
Model: Demi Moore (1962– )
3. Esquire 1968年4月号
4. The New Yorker 1976年3月29日号
表紙を描いたソール・スタインバーグは、知的で洗練された一コマ漫画で知られているルーマニア生まれのアメリカのイラストレーター。表紙はニューヨーク市民の歪んだ自尊心を皮肉った「View of The World from 9th Avenue」(9番街からの世界観)と題された有名なイラスト。マンハッタンから見た世界の眺めを描き、マンハッタンが世界の中心であることを示している。
Illustration: Saul Steinberg (1914–1999, 80)
5. Esquire 1969年5月号
キャンベルスープに溺れるアンディ・ウォーホル。特集は「アメリカ前衛芸術の没落と崩壊」。
Art Directior: George Lois (1931– 2022, 91)
Model: Andy Warhol (1928–1987, 58)
6. The New Yorker 2001年9月24日号
表紙は、アメリカの漫画家アート・スピーゲルマンが、黒一色の画法で有名なミニマリスト、アド・ラインハート (Ad Reinhardt, 1913–1967, 53) からインスパイアされ描いた。よく見るとワールドトレードセンターのシルエットが描かれており、2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件で世界中を包み込んだ虚無と畏怖を表している。スピーゲルマンはジョージ・W・ブッシュと保守的なメディアを痛烈に批判しており、左側のタワーのアンテナは「NEW YORKER」の「W」(ジョージ・W・ブッシュのW?)を突き刺している。
Illustration: Art Spiegelman (1948– )
7. National Lampoon 1973年1月号
『ナショナル・ランプーン』はダグ・ケニー がハーバード大学の同窓生らと創刊したユーモア雑誌で、1970年代のポップカルチャー、カウンターカルチャー、政治を知性と悪趣味で取り上げ人気を博した。表紙には「この雑誌を買わないと犬を撃ち殺す」というキャッチフレーズが書かれており、リボルバーを突き付けた人間を怪訝そうに見つめている様を滑稽に描いた。アートディレクターは映画『ゴーストバスターズ』のロゴをデザインしたマイケル・グロス。2018年、Netflix でケニーの人生を描いた映画『意表をつくアホらしい作戦』が公開された。
Publisher: Douglas Kenney (1946–1980, 33)
Art Directior: Michael C. Gross (1945–2015, 70)
8. Esquire 1966年10月号
ジョン・サック (John Sack, 1930–2004, 74) は、半世紀以上にわたりアメリカの戦争をすべて取材した唯一のジャーナリスト。サックスはエスクァイア誌のベトナム特派員となり、33,000語に及ぶ同誌最長の記事を掲載。「Oh My God-We hit a little girl」(ああ、なんてことだ、少女に命中した)と書かれた表紙は戦闘の残酷さを捉え、ベトナム戦争に対する人々の認識を変えたことでニュー・ジャーナリズムの歴史における画期的な出来事となった。
Art Directior: George Lois (1931– 2022, 91)
9. Harper's Bazaar 1992年9月号
1867年にアメリカ初のファッション誌として創刊された『Harper's Bazaar』。125周年を迎えた1992年、編集長に就任したリズ・ティルベリスは、フランス出身の天才的アートディレクター、ファビアン・バロンを起用し誌面を刷新。スーパーモデルのリンダ・エヴァンジェリスタと洗練されたなタイポグラフィによる1992年9月号は、雑誌史上最も劇的な改革となった。1995年1月、ティルベリスは『Harper's Bazaar』での功績を讃えられ、友人のダイアナ妃 (1961–1997, 36) からCFDAアワード特別賞を受賞。ファビアン・バロンは同年9月、カルバン・クラインのクリエイティブ・ディレクターに就任した。
Chief Editor: Liz Tilberis (1947–1999, 51)
Art Directior: Fabien Baron (1959– )
Model: Linda Evangelista (1965– )
10. National Geographic 1985年6月号
1985年6月にナショナル・ジオグラフィックの表紙を飾り、世界で最も有名な写真になった「アフガンの少女」(Afghan Girl) 。以来、少女の写真は敷物やタトゥーに使われ、世界で最も広く複製された写真のひとつとなった。報道写真家スティーブ・マッカリーは、アフガニスタンとパキスタンの国境にある難民キャンプにいた12歳の少女を撮影。
その後、彼女は行方不明だったが、2002年ついにシャルバ・グアは発見された。彼女はインタビューで自分の写真が世界中で独り歩きしていることに憤慨し、有名になったことで危険にさらされたという。2016年、シャルバは35年間不法滞在していたパキスタンで逮捕され、アフガニスタンに強制送還されたが2021年、イタリアに避難し市民権を得た。
2016年、フォトショップなどを使った写真操作を告発されたマッカーシーはそれを否定しなかった。
Photographer: Steve McCurry (1950– )
Model: Sharbat Gula (1972– )