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The Rolling Stones – Sticky Fingers

July 26, 2018

The Rolling Stones – Sticky Fingers US, 1971

The Rolling Stones – Sticky Fingers


Released

23 April 1971


Label

  • UK: Kinny UK
  • US: Atco Records

Photography
Art Direction

Andy Warhol (1928–1987)


Designer

Craig Braun (1939–)


Models


Fonts


本日7月26日はミック・ジャガーの誕生日ということで、ローリング・ストーンズ11枚目のアルバム『スティッキー・フィンガーズ』のデザイン秘話を。 アンディ・ウォーホルが手掛け「史上最高のカバーアート」として名高いアルバムで、ウォーホルに1万5千ポンドのギャラが支払われた。
* 現在の金額で約15万ポンド~20万ドル相当/約2,200万円

◆ 写真について

カバーのモデルはジェド・ジョンソンで、ウォーホルがポラロイドで撮影した。 インナースリーブのモデルは、ウォーホルのアシスタントだったグレン・オブライエン である。

◆ ウォーホルがデザインしたのか?

1969年、ウォーホルがミック・ジャガーとパーティーで同席した際、本物のジッパーを使うアイデアを提案したという。 実際にデザインしたのは米国のグラフィックデザイナー、クレイグ・ブラウンである。 本人へ確認のメッセージを送ったところ、すぐに「私がデザインしたよ!」という返信があった。 つまりジッパーのコンセプトはウォーホル、デザインはクレイグである。

US 盤でクレジットで確認できる。
Cover Concept/Photography: Andy Warhol
Album Desgin/Graphics: Craigbrauninc.

「ジーンズを履いて、動くジッパーを付ければ、人々はその奥にあるものを見たいと思うだろう」ということで、クレイグはウォーホルのファクトリーに電話をかけ、追加の撮影を依頼した。 ウォーホルから届いたのは、男性モデルが下着姿になったポラロイド写真であった。 アルバムは、ジッパーがビニールを傷つけるということで初回盤は回収されたものの、全米と全英で1位を記録した。

なお、このアルバムは1972年のグラミー賞ベストアルバムカバー部門にノミネートされたが、B. B. King『Indianola Mississippi Seeds』に受賞を奪われた。

クレイグは Herb LubalinTom Carnase とも仕事をしたそうで、やはり当時からこの二人は別格だったようだ。
※ルバーリンは、ピカソやマリリン・モンロー、ジョン・レノン、エーロ・サーリネンなど欧米の著名人・企業と仕事をし、カーネーズはスティーブ・ジョブズの依頼でアップルのロゴタイプをデザインした。

ちなみに Quincy Jones – Smackwater Jack もクレイグによるデザイン。 マグリットを彷彿させるロマンティックなカバーアートで、12年ほど前、このアルバムで使用されたフォントが分からず、血眼になって探したものである。
Bowfin Printworks のオーナー Michael Yanega から Design というフォントであることを教えていただいた。
クレイグは、ほかにもジミ・ヘンドリックスやカーペンターズなどのカバーアートを手掛けた。
>> Discogs でクレイグの作品を見る。

Quincy Jones – Smackwater Jack

Quincy Jones – Smackwater Jack, 1971. Designed by Craig Braun

◆ 舌のシンボル

このアルバムで、はじめて舌のシンボル ("Red Lips", "Lips & Tongue") が使われた。 ミック・ジャガーは、当時ロイヤル・カレッジ・オブ・アートの三年生だったジョン・パッシュにシンボルのデザインを依頼。 パッシュは街角で見たヒンドゥー教のカーリー神の写真にインスパイアされ、2週間ほどで仕上げた。 なお、ピンク・フロイド『狂気』やレッド・ツェッペリンの1stアルバムのアートワークを手掛けたジョージ・ハーディ(George Hardie, 1944–)とパッシュはクラスメイトである。

ニューヨークでは、カバーアートの締め切りが迫っていたが、ロンドンでは、まだシンボルが完成していなかった。 マーシャル・チェス(Marshall Chess, 1942– / Rolling Stones Records 社長)がロンドンから FAX で送ってきた1インチのラフを元に、クレイグの社内のイラストレーターが、舌の幅を狭め、白のアクセントを加え、喉の部分を黒く塗りつぶしてシンボルを完成させた。

そうしてクレイグのバージョンは US 盤、パッシュのバージョンは UK 盤で使用された。 その後、ローリングストーンズの公式としてクレイグのバージョンが使用されている。 ちなみに、チェスがクレイグの修正を知ったのは45年後のことである。 さらにクレイグは、アーニー・チェファルがデザインした別バージョンをライセンスし、ジュエリー、ベルト、バックル、ピンなどのグッズを販売した。

Red Lips, Lips & Tongue

パッシュは、1984年にデザインの著作権をバンドに26,000ポンド(当時のレートで約40,000ドル)で売却。 2008年には、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館が原画を5万ポンド(9万2,500ドル)で購入した。

なお、英国の著名なイラストレーター、アラン・オルドリッジ(Alan Aldridge, 1938–2017)が1969年にリリースした『The Beatles Illustrated Lyrics』に掲載されているイラストと、シンボルの類似が指摘されている。

Red Lips, Lips & Tongue

◆ フォントについて

クレイグのメッセージでは、Cheltenham Medium か Regular をスタンプにして使ったという(こちらで確認したところ Medium であった)。 アルバムを確認すると、US 盤では Cheltenham、UK 盤と、事情により写真が差し替えられたスペイン盤では Kabel Black (写植版は Heavy に該当)が使われた。 偶然かどうか、Cheltenham(チェルトナム)はブライアン・ジョーンズ(Brian Jones, 1942–1969)の出身地名と同じである。

ちなみに Kabel は、ルドルフ・コッホというタイポグラフィー史において極めて重要な人物によるデザインであるが、日本ではいまいち人気がない様子。 同じころにデザインされたジオメトリックゴシックでも Futura は優等生のような端正な佇まいであるのに対し、Kabel はどこか不良っぽさがあり、個人的に最もロックを感じさせるフォントである。

コッホの遺作展に感銘を受けたヘルマン・ツァップは、コッホの息子パウルのところで働いた。 第一次世界大戦に従軍したコッホは、ケーブルを敷設する作業をしていたという。 「カベル」はドイツ語で「電線」(ケーブル/英: cable)のことなので、この体験がフォント名に由来しているかも知れない。

チェルトナムは、印刷会社 Cheltenham Press の為に建築家バートラム・グッドヒューとモーリス・フラー・ベントン がデザインした書体である。 古今、HelveticaFutura より使われているのは、ベントンのフォントではないだろうか。 また、Tom Carnase のフォントを見ると、ベントン系譜の王道のタイポグラファーだということがよくわかる。

現在、クレイグは俳優としてデニーロやヒュー・ジャックマンと共演し活躍している。
>> IMDb でプロモーションビデオを見る。

US: Cheltenham Medium

UK: Kabel Black

Cheltenham Medium

Cheltenham Medium で文字組したもの。
残念ながら Medium ウエイトはデジタル化されていないので、写植版から一部キャラクターをデジタル化してみた。

Kabel Black

Kabel Black で文字組したもの。

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