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The Velvet Underground & Nico

May 29, 2020

The Velvet Underground & Nico

The Velvet Underground & Nico


Released

12 March 1967


Producers

Andy Warhol (1928–1987)
Tom Wilson (1931–1978)


Label

Verve


Art Direction

Andy Warhol (1928–1987)


Art Work

Andy Warhol (1928–1987)


Design

Front: Craig Braun (1939–)
Back: Acy Lehman (1920–2002)


Fonts

Front: Coronet Bold
Back: Othello


◆ Craig Braun とのやりとり

2018年に執筆した「The Rolling Stones – Sticky Fingers」のカバーアートについて、クレイグ・ブラウンに確認し忘れたことを思い出したので、久々にメッセージしてみた(やりとりは2020年5月28日)。 前回のやりとりは2018年7月15日だったので、実に約2年ぶりである。

内容は「なぜ The Rolling Stones – Sticky Fingers のカバーアートに異なる2種のフォント「Cheltenham」(チェルトナム) と「Kabel」 (カベル) を使ったのか?」というもの。 メッセージを送ると、リアルタイムで返信があった。

クレイグ「チェルトナムはモダンでありながらさり気なく、スタンプとの都合も良てウォーホルのカバー写真を邪魔しなかった。カベルはイギリス版 WEA 社(Warner-Elektra-Atlantic) が使用したが、実はこれも私のお気に入り。うまくいった」

それとロンドンのジョン・パッシュから届いた舌のロゴをブラッシュアップして『Sticky Fingers』のカバーアートに使ったという。
クレイグ「ストーンズや私がデザインした他の音楽・バンドロゴでジュエリーを制作するために Rockreations という会社を立ち上げた」
※ The Rolling Stones オフィシャルショップでも“The 'Licks' logo by Rockreations”と明記されている。

クレイグ「そうそう、息子のティム (Tim Braun) が私について書いた本を送ってきたんだ。その時代は、私の記憶の中ではあまりハッキリしていなかったけれど、不思議と創造的だったんだ...。セックスとドラッグとロックンロール!」

◆ Diane von Furstenberg

2009年に私がファッションデザイナーの Diane von Furstenberg へフォントを納品したこと伝えると、クレイグから驚くべき返信があった。
クレイグ「ダイアンと私は70年代前半から90年代後半にかけて一緒だった。彼女がファッション業界へ戻ると決心した時、私は彼女が手書きした筆記体をロゴタイプとしてデザインした」

Diane von Furstenberg Old Logo

Diane von Furstenberg Logo designed by Craig Braun, 1999
trademark.trademarkia.com

◆ Tommy

クレイグは、 ロンドン交響楽団 Tommy のカバーアートをディレクションし、トム・カーネーズにロゴデザインを依頼したことを教えてくれた。 ちょうど先日、グラフィックデザイナーの駒形克己さんが米CBS在籍中、カーネーズにレタリングを依頼したという投稿を読んで、だれのアルバムだろうと考察していたところであった。

The London Symphony Orchestra – Tommy

The London Symphony Orchestra – Tommy, 1972
Design: Craig Braun and Tom Wilkes
Lettering: Tom Carnase

The Who – Tommy (1969) を音楽プロデューサーのウィル・マローンがアレンジしたアルバム。 カバーアートは眼球をイメージしており、クレイグは尊敬するトム・カーネーズにレタリングを依頼。 1974年の「Grammy Best Album Package」部門で、巨匠 John Berg (1932–2015) がデザインした『Chicago VI』をおさえ、見事グラミー賞を獲得した。

◆ Tom Wilkes

トム・ウィルクス (Tom Wilkes, July 30, 1939 – June 28, 2009) は、アメリカのアートディレクター/グラフィックデザイナーで、ArtCenter College of Design で学んだ後、1967年のモントレー・ポップ・フェスティバルのアートディレクターに抜擢。 1967–69年まで A&M Records に在籍し、The Beatles "1962-1966", "1967-1970", George Harrison ‎"All Things Must Pass", Janis Joplin "Pearl"など、膨大な著名カバーアートを手掛けた。

1970–73年までボブ・ディランなどを撮影した写真家バリー・ファインスタイン (Barry Feinstein, 1931–2011) のパートナーとして働き、1973年にクレイグとデザインスタジオ Wilkes & Braun Inc. を立ち上げた。 1975–77年までABCレコードのアートディレクターを務め、1978年には Tom Wilkes Productions を立ち上げ、非営利法人 Project Interspeak の代表となった。

Designed by Tom Wilkes

◆ Carpenters

クレイグとチャット中、オーブリー・パウエルとヒプノシスストーム・ソーガソンの共著『100 Best Album Covers』から好きなカバーアートを送信していると、クレイグはカーペンターズのロゴもデザインしたことを教えてくれた。

アーチ型の橋をイメージしたタイポグラフィは、クレイグがデザインした1971年の3rdアルバム『Carpenters』で初めて使用されたが、もともとロゴとしてデザインしたものではなかった。リチャード・カーペンターはこれに惚れ込んで、以後、カーペンターズのすべてのパッケージとマーケティングに使うことになったという。

Carpenters 1971

Carpenters – Carpenters, 1971
Design and Concept: Craig Braun, Inc.

Carpenters The Musical Legacy

Carpenters: The Musical Legacy – Mike Cidoni Lennox and Chris May, 2021
クレイグから送られてきた画像で、右が若い頃のクレイグ。

100 Best Album Covers

100 Best Album Covers – Storm Thorgerson, Aubrey Powel, 1999
ストーム・ソーガソンから影響を受けたというクレイグ。クレイグがデザインしたものがいくつか掲載されている。
2022年10月15日、京都でのイベント『好きな映画は好きな音楽で憶えている』で、敬愛する音楽プロデューサー 立川直樹さんとお会いした際にプレゼントさせていただいた。 立川さんとはラジオ番組『RADIO SHANGRI-LA』をキッカケに2020年10月25日、枚方の『そば切り天笑』で偶然お会いして以来、交友が続いている。
☞ Amazon: 100 Best Album Covers

◆ バナナ・アルバム

極めつけはバナナ・アルバムをクレイグがデザインしたということである。

このアルバムのプロデューサーはふたり。 ひとりはこのバンドのマネージャーのアンディ・ウォーホル、もうひとりはボブ・ディランの“Like a Rolling Stone” (1965) などをプロデュースしたトム・ウィルソン (Tom Wilson, 1931–1978) 。

表にはバンド名すら記載されておらず、「Andy Warhol」のクレジット。 カバーアートのバナナはステッカーになっており、むくと中からピンク色の実が出てくるという仕組みは、実にギミック好きのクレイグらしいアイデアで男根をイメージしている。 裏面はヴァーヴ・レコードの名デザイナーであったアーシー・リーマン (Acy Lehman, 1920–2002) によるデザインである。 ジャズレーベルのヴァーヴ・レコードからリリースされたことも興味深い。

リリース当時は評判が良くなかった同アルバムであるが、のちに『ローリング・ストーン』誌が選んだ「史上最高のアルバム500枚」で13位にランクインする名盤となった。

◆ Nico

クリスタ・ペフゲンことニコ (Nico, 1938–1988) は、ドイツのシンガーソングライター、女優、モデルである。 彼女を見出した写真家ヘルベルト・トビアス (Herbert Tobias, 1924–1982) から、彼が敬愛した映画監督ニコ・パパタキス (Nikos Papatakis, 1918–2010) にちなんで「ニコ」という名前を与えられ、彼女はそれを一生使い続けた。

1959年、フェデリコ・フェリーニ監督『甘い生活』で脇役として出演。 その頃、彼女はニューヨークに住み、アクターズ・スタジオのリー・ストラスバーグ(『ゴッドファーザーPart II』のハイマン・ロス役が有名)に演技のレッスンを受けていた。

Serge Gainsbourg & Nico - Strip-Tease, 1962
セルジュ・ゲンスブールが作曲したフランス映画『STRIP-TEASE』(1963年公開)のテーマ曲をレコーディングしたが、2001年に『Le Cinéma de Serge Gainsbourg』というコンピレーションに収録されるまでリリースされなかった。

1965年、ニコはジミー・ペイジのプロデュースでファーストシングル『I'm Not Sayin』(1965) を録音。 さらにローリング・ストーンズのギタリスト、ブライアン・ジョーンズからアンディ・ウォーホルを紹介され『Chelsea Girls』(1966) などの映画に出演した。

「彼女をベルベッツのメンバーに迎え入れよう」というウォーホルの提案をメンバーは不本意ながら同意し、ニコは3曲(3. Femme Fatale / 5. All Tomorrow's Parties / 9. I'll Be Your Mirror)でリードヴォーカル、1. Sunday Morning でバックボーカルを務めたが、彼女は楽屋での長い準備や演奏前のろうそくを燃やす儀式でしばしば演奏を中断させ、 メンバーを苛立たせたという。

その後、ソロ活動に転身し、ファースト・アルバム『Chelsea Girl』(1967) では、俳優ベン・カラザースから紹介されたボブ・ディランの「I'll Keep It with Mine」を録音。 ニコの友人ジム・モリソン (Jim Morrison, 1943–1971) は、彼女に自分の曲を書き始めるように勧めた。

Nico – Evening of Ligh, 1969
ザ・ストゥージズのイギー・ポップが出演。

1970年代には、ジョン・ケイルがプロデュースした2枚のアルバム『Desertshore』(1970) と『The End...』(1974) をリリース。 『The End...』ではシンセサイザーにブライアン・イーノ、ギターにロキシー・ミュージックのフィル・マンザネラが参加した。

1980年代にはヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、日本などで大規模なツアーを行ったが、1988年7月18日、休暇先のイビサ島で自転車事故のため死去した。49歳だった。 プライベートでは、1962年にアラン・ドロンとの息子を出産した。

The Bill Evans Trio – Moon Beams

The Bill Evans Trio – Moon Beams, 1962. Model: Nico
カバーモデルはニコ。

◆ 尋ねてみた

2022年1月22日に隆祥館書店で行われたイベントで、立川直樹さんに「好きなカバーアート・ベスト3」を尋ねてみた。
1. The Velvet Underground & Nico, 1967
2. Elvis Presley, 1956
3. Billie Holiday – Solitude, 1952

ちなみに立川直樹著『音楽の聴き方-聴く。選ぶ。作る。音楽と生きる日々とスタイル』を執筆するキッカケとなったのは、私とのこと(同書26ページ)。

2023年2月、クレイグに彼が影響を受けたデザイナーを尋ねてみた。
クレイグ「Paula Scher, Tom Carnase, Herb Lubalin, Alan Peckolick, Dick Avedon, George Nelson, Hiro, James Moore, Bert Stern, Phil Marco, Norman Sieff, Storm Thorgeson and on and on …so many!」

ちなみに Hiro (1930–2021) はアヴェドンに師事したファッション写真家で、本名は若林康宏 (Yasuhiro Wakabayashi) という。 1963年に『Harper's BAZAAR』で唯一の契約フォトグラファーとなり、以後10年にわたりその地位を維持した。

私が『Harper's BAZAAR Design History』を執筆した2006年には氏は健在だったので、2021年に他界されたと知ったときは深い悲しみと、刻々と流れゆく時の儚さを感じた。

The Velvet Underground & Nico, 1967 と The Rolling Stones – Sticky Fingers, 1971
このふたつの傑作をウォーホルとともにデザインしたクレイグ・ブラウンが人類史上最高のカバーアートデザイナーの一人であることは間違いない。

Last updated: 16 April 2023